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注文の多い料理店 3

二人の前になおも立ちふさがる怪しげな扉! 最終章、衝撃の結末!!
 するとすぐその前に次の戸がありました。
   「料理はもうすぐできます。
    十五分とお待たせはいたしません。
    すぐたべられます。
    早くあなたの頭に瓶(びん)の中の香水をよく振(ふ)りかけてください。」
 そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
 二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
 ところがその香水は、どうも酢(す)のような匂(におい)がするのでした。
「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
「まちがえたんだ。下女が風邪(かぜ)でも引いてまちがえて入れたんだ。」
 二人は扉をあけて中にはいりました。
 扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。
   「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
    もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん
    よくもみ込んでください。」
 なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互にクリームをたくさん塗った顔を見合せました。
「どうもおかしいぜ。」
「ぼくもおかしいとおもう。」
「沢山(たくさん)の注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家(うち)とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。
「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。
「遁(に)げ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押(お)そうとしましたが、どうです、戸はもう一分(いちぶ)も動きませんでした。
 奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、
   「いや、わざわざご苦労です。
    大へん結構にできました。
    さあさあおなかにおはいりください。」
と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉(めだま)がこっちをのぞいています。
「うわあ。」がたがたがたがた。
「うわあ。」がたがたがたがた。
 ふたりは泣き出しました。
 すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。
「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」
「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜(まぬ)けたことを書いたもんだ。」
「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉(く)れやしないんだ。」
「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿(さら)も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌(きら)いですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」
 二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑(かみくず)のようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。
 中ではふっふっとわらってまた叫(さけ)んでいます。
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角(せっかく)のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」
 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
 そのときうしろからいきなり、
「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、あの白熊(しろくま)のような犬が二疋(ひき)、扉(と)をつきやぶって室(へや)の中に飛び込んできました。鍵穴(かぎあな)の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくる廻(まわ)っていましたが、また一声
「わん。」と高く吠(ほ)えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
 その扉の向うのまっくらやみのなかで、
「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がして、それからがさがさ鳴りました。
 室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。
 見ると、上着や靴(くつ)や財布(さいふ)やネクタイピンは、あっちの枝(えだ)にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。風がどうと吹(ふ)いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
 犬がふうとうなって戻(もど)ってきました。
 そしてうしろからは、
「旦那(だんな)あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。
 二人は俄(にわ)かに元気がついて
「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。
 簔帽子(みのぼうし)をかぶった専門の猟師(りょうし)が、草をざわざわ分けてやってきました。
 そこで二人はやっと安心しました。
 そして猟師のもってきた団子(だんご)をたべ、途中(とちゅう)で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。
 しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。


  終





<hr size="1" />と入れるか、編集窓上部の水平線アイコンボタンを使うと、このように線が一本表示されます。あとがきなど欲しい時に使っても。
前後の話へのリンクは自分で入れてください。
2011-05-19
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